2019年12月15日にリリースされたYOASOBIの楽曲「夜に駆ける」がヒットしていますが、人気YouTubeチャンネル『THE FIRST TAKE』でikuraさんが「夜に駆ける」を歌唱した動画がたった1週間で再生回数が570万回を突破して話題になっています。
コンポーザーのAyaseさんがこの動画用に「夜に駆ける」を新たにアレンジされているのですが、そのバージョンも凄く良くてオリジナルとはまた違った魅力を放っています。
僕も元々YOASOBIさんの楽曲は大好きで聴いていたのですが、今回の動画を見てikuraさんの歌唱力と表現力の高さ、ボーカルテクニックに改めて凄いなと思いました。
なので今回は、YOASOBIの「夜に駆ける」を一発録りで歌っているikuraさんの歌い方を解説していきたいと思います。
Contents
「夜に駆ける」歌い方、YOASOBIのikuraさん(本家)を解説!
まずはYouTubeチャンネル『THE FIRST TAKE』のYOASOBI「夜に駆ける」を聴いてみましょう。
『夜に駆ける』歌詞(作詞・作曲・編曲:Ayase)
沈むように溶けてゆくように
二人だけの空が広がる夜に
「さよなら」だけだった
その一言で全てが分かった
日が沈み出した空と君の姿
フェンス越しに重なっていた
初めて会った日から
僕の心の全てを奪った
どこか儚い空気を纏う君は
寂しい目をしてたんだ
いつだってチックタックと
鳴る世界で何度だってさ
触れる心無い言葉うるさい声に
涙が零れそうでも
ありきたりな喜びきっと二人なら見つけられる
騒がしい日々に笑えない君に
思い付く限り眩しい明日を
明けない夜に落ちてゆく前に
僕の手を掴んでほら
忘れてしまいたくて閉じ込めた日々も
抱きしめた温もりで溶かすから
怖くないよいつか日が昇るまで
二人でいよう
君にしか見えない
何かを見つめる君が嫌いだ
見惚れているかのような恋するような
そんな顔が嫌いだ
信じていたいけど信じれないこと
そんなのどうしたってきっと
これからだっていくつもあって
そのたんび怒って泣いていくの
それでもきっといつかはきっと僕らはきっと
分かり合えるさ信じてるよ
もう嫌だって疲れたんだって
がむしゃらに差し伸べた僕の手を振り払う君
もう嫌だって疲れたよなんて
本当は僕も言いたいんだ
ほらまたチックタックと
鳴る世界で何度だってさ
君の為に用意した言葉どれも届かない
「終わりにしたい」だなんてさ
釣られて言葉にした時 君は初めて笑った
騒がしい日々に笑えなくなっていた
僕の目に映る君は綺麗だ
明けない夜に溢れた涙も
君の笑顔に溶けていく
変わらない日々に泣いていた僕を
君は優しく終わりへと誘う
沈むように溶けてゆくように
染み付いた霧が晴れる
忘れてしまいたくて閉じ込めた日々に
差し伸べてくれた君の手を取る
涼しい風が空を泳ぐように今吹き抜けていく
繋いだ手を離さないでよ
二人今、夜に駆け出していく
— 原作:「タナトスの誘惑」(星野舞夜 著) https://monogatary.com/story/33826 —
本当に素晴らしい歌声ですね。
それでは、ikuraさんのボーカルテクニックを細かく解説していきます。
1番の歌い方の解説
まずは冒頭の「沈むように〜」と歌い始まる直前のブレスです。歌い出しの一拍前からブレスを取り、グルーヴを出しているのと同時に歌に生々しさを加えて一気に楽曲に引き込んでいます。
「沈むように溶けてゆくように」では、ピンクの部分が地声なのに対して同じ音階の緑の部分は裏声にしています。溶けていくという儚い感じを裏声で表現しています。
「「さよなら」だけだった」はさよならだけをウィスパーボイスにしています。ここでの「さよなら」は主人公ではなく相手の言った別れの言葉なので、寂しさを息混じりの声にしています。
「その一言で全てが分かった」のピンクの部分は地声のように聴こえますが、上手にミドルボイスにしている可能性もあります。
「初めて会った日から」のはじをウィスパー気味にしています。
「僕の心の全てを奪った」では、心の『ろ』をコロッと転がしています。沖縄民謡などでよく使われるテクニックですが、ikuraさんはこのテクニックをよく使っているようです。そして全てをの『てを』を裏声にし、そのあとに続く奪ったの『う』の入りが裏声のまましゃくって地声に戻すという高度なテクニックを使っています。心を奪われた時のおかしくなりそうな感情をとても上手く表現していると思います。
次の「どこか儚い空気を纏う君は 寂しい目をしてたんだ」では、だんだん声量を落としていって寂しい空気感を出し、Bメロにつなげています。
「いつだってチックタックと〜」からのBメロは、楽曲のリズムと歌詞に合わせて歯切れよく歌っています。
Bメロ最後の「ありきたりな喜びきっと二人なら見つけられる 」では、喜びきっとの『こびきっ』をミドルボイスにして、ブレスを一瞬入れて『と』から地声に切り替えています。さらに最後の『る〜』は伸ばした後にしゃくって声をまた裏声にしています。
サビは地声と裏声の切り替えがとても忙しいのですが、色分けすると下記のようになっていると思います。
騒がしい日々に笑えない君に
思い付く限り眩しい明日を
明けない夜に落ちてゆく前に
僕の手を掴んでほら
忘れてしまいたくて閉じ込めた日々も
抱きしめた温もりで溶かすから
怖くないよいつか日が昇るまで
二人でいよう
緑が裏声でピンクがミドルボイス、それ以外が地声で歌っていると思われますが、ピンクの部分はもしかしたら地声で歌っているかもしれません。
とても上手なので、正直分からないです。なので、自分が歌いやすい方で歌ってみると良いと思います。
2番から最後までの歌い方の解説
続いて2番のAメロですが、「君にしか見えない」は全体的に声量を抑え儚げに歌い、見えないの部分で『見』と『え』の間に一瞬だけ間を入れてウラのグルーヴを出しています。「見っえーなぃ」という感じで歌っていますね。
「見惚れているかのような恋するような 」の『恋する』と『ような』の間にも同じように間を入れて「恋するっよーうな」と歌っています。
「そんな顔が嫌いだ 」の嫌いの『ら』をエッジボイスにして嫌いという感情を表現しています。
「信じていたいけど信じれないこと〜」から始まるパートはオケのリズムが変わるので、そのリズムに寄り添うように歌っている感じです。そして「それでもきっといつかはきっと僕らはきっと 分かり合えるさ」という長いフレーズを一息で歌っています。凄いですね。
間奏で「Ah〜〜〜」とエッジボイスで入り、ストレートのロングトーンを出しています。
このストレートのロングトーンは地味に難しいです!ここまで綺麗に音程がブレずにロングトーンを発声するには、しっかりした声の支えと安定感が必要です。ビブラートをかければ誤魔化せたりもしますが、ikuraさんはノンビブラートで表現しています。凄いです。
間奏明けの「もう嫌だって疲れたんだって がむしゃらに差し伸べた僕の手を」もまた長いフレーズを一息で歌っています。そしてこの曲の中で一番強い地声を使っているのがこの部分です。
その後の「もう嫌だって疲れたよなんて」の『なんて』で一気にテンションを落とし、本音を言いたいけど言えないという主人公の心情を表現しています。
1番のBメロでは、まだ主人公が希望を持っていたのでその心情をリズムに合わせて軽快に表現していたのに対し、2番のBメロでは主人公の希望が打ち砕かれて疲弊している心情を、エッジボイスと裏声と全体的に弱い声によって表しています。
サビはまた色分けで発声方法を解説します。
騒がしい日々に笑えなくなっていた
僕の目に映る君はきれいだ
明けない夜に溢れたなみだも
君の笑顔に溶けていく Ah
変わらない日々に泣いていたぼくを
きみはやさしく終わりへとさそう
しずむように溶けてゆくように
染み付いた霧が晴れる
忘れてしまいたくて閉じ込めた日々に
差し伸べてくれた君の手を取る
涼しい風が空を泳ぐように今吹き抜けていく
繋いだ手を離さないでよ
二人今、夜に駆け出していく
緑が裏声でピンクがミドルボイス、それ以外が地声で歌っていると思われます。1番のサビと同じでピンクの部分を地声で歌っている可能性もあります。(ちなみに原曲では「空を泳ぐよう」の部分以外は全て地声かミドルボイスで歌っています。)
落ちサビの部分はキーが半音下がっていて、歌のテンションも全体的に下げています。そして要所要所にエッジボイスを入れています。エッジボイスを入れている場所を確認するため、もう一度落ちサビの歌詞に色を着けて説明します。
騒がしい日々に笑えなくなっていた
僕の目にうつる君はきれいだ
明けない夜に溢れた涙も
君の笑顔に溶けていく
青い部分がエッジボイスです。かなり入っていますね。この部分の歌詞は物語のクライマックス直前です。
相手が明かした答えは主人公の理想の答えではなかったけれど、それは自分が本当は求めていた答えなのかもしれないと気づき始め、だんだん確信に変わっていき全てが解放されていくなんとも言えない主人公の感情が表現されていると思います。
最後のサビは、全てを受け入れて解放された主人公の、力強くも儚く消えていく主人公自体を表しているように感じます。
一番最後の『夜に駆け出していく』の「け出し」を裏声にしているのが特に物語っていて、本来駆け出していくのなら力強く歌うべきなのですがこの歌詞の駆け出していくは普通の駆け出すとは違う意味なので、裏声にして表現しているのだと思います。
まとめ:YOASOBI「夜に駆ける」ikuraさんの歌い方を解説!
YOASOBIのikuraさんの歌い方を解説してみましたが、ikuraさんは表現力が豊かであり、一音一音をとても丁寧に歌っている印象でした。
そして何より透き通るような歌声がとても綺麗で、常に発声が安定しています。ビブラートはほとんどかけずに歌っているのも特徴です。
2020年7月28日追記↓
2020年7月にTikTokライブに出演していたikuraさんが、リスナーからの高い声の歌い方についての質問に対し、「ミックスボイス(アタックの強い裏声)を使っています」とおっしゃっていました。「夜に駆ける」のサビは地声と裏声(ミックスボイス)を細かく切り替えているそうです。ご本人がそういうネタバラシ的な話をされるってなかなかないですよね。これは嬉しい情報でした。
「夜に駆ける」はとても難易度が高い歌ですが、ikuraさんは基礎がしっかり出来ているからこそ歌詞を表現しながら安定して歌えるのだと思いました。
今回参考にさせていただいた楽曲の資料はこちらです。
楽曲についての余談
YOASOBIさんの楽曲「夜に駆ける」ですが、この記事で歌い方解説をさせていただいたバージョンはTHE FIRST TAKE用にアレンジされたものなのですが、このアレンジがまたとても良いんです。
「夜に駆ける」の原曲のBPM(テンポ)は130と速いのですが、今回のアレンジはBPMを115まで落としていてikuraさんの歌の表現の上手さがより引き立っているように感じました。原曲の方はもう少しストレートにクールに歌っている印象です。
オケのアレンジでは、ジャジーなベースラインがとてもオシャレでグルーヴィーです。原曲に比べて全体的にオーガニックなサウンドになっていると思いきや、電子音もしっかりとハマっていますし原曲と同じピアノのキモのフレーズは残してあったり、YOASOBIのコンポーザーであるAyaseさんの実力やセンスの高さを感じます。
そしてこの曲は構成がとても面白いとも思います。
曲の始まりはサビの5小節目と6小節目のメロディーを2回繰り返して始まります。
なかなかこんな曲は無いですよね。
そして使っているコードは大まかに言うと5つのコードしか使っておらず、そのコードをセブンスにしたりマイナーにしたり、転調したりして変化をつけています。
コードの流れを見ていくと、この曲はAメロもBメロもサビも最初のコードはFで始まります。
もっと面白いのはBメロとサビは5小節目までコード進行が全く一緒なんです。
とてもシンプルなのですが、なかなか思いつかない発想なのではないでしょうか?
同じTHE FIRST TAKEバージョンの「紅蓮華」のLiSAさんや、「ただ君に晴れ」のヨルシカsuisさんなどの歌い方解説もしていますので、良かったら是非ご覧ください!
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