ここ数年でよく耳にするようになった『ベルティングボイス』という言葉をご存知でしょうか?
最近ではBTSのJINさんの歌声が素晴らしいベルティングボイスだと世界的に評価され、さらにベルティングボイスの知名度が上がったように感じます。
歌について勉強している方は知っているかもしれませんが、「ベルティングボイスは高い声を出す歌唱法」と言われています。
そうすると、「高音発生法で有名なミックスボイスとの違いは何?」という質問が出てきますよね。
ミックスボイスについてはこちらの記事をご参照ください。
ということで今回はベルティングボイスとは何か、ミックスボイスとの違いについて、出し方(練習方法)も解説していきます。
Contents
ベルティングボイスとは?
ベルティングボイスは英語で『Belting voice』と書きます.
意味は『Belt』(ベルト)『ing』(している)『voice』(声)です。
ベルトしている声って何??って思いますよね?
ベルトという英語は、腰につける『ベルト』の意味以外に、『突っ走る』『ひっぱたく』という意味もあるんです。
この意味を元に『ベルトしている声』を改めて想像してみましょう。
いかがですか?なんとなくわかった方もいると思いますが、
『ベルトしている声』=『勢いよく出している声』という意味で捉えるのが一番近いと思います。
そしてベルティングボイスとは、
通常の地声では発声できない高音域を地声で発声する声を指します。
マライア・キャリーの高い声を想像してみてください。
あの声がベルティングボイスです。
参考動画を貼っておきます。
名曲「Emotions」をライブで見事に歌い上げるマライア・キャリーの動画ですが、
D5〜F5付近の高音部分を張り上げるように歌っています。
あの声がベルティングボイスです。
ちなみに、同じくパワフルな高音が特徴のビヨンセですが、彼女はミックスボイス(裏声を強く太く響かせる発声方法)で歌っているので、マライア・キャリーのベルティングボイスとは少し違います。
こちらも参考動画を貼っておきますね。
こちらはビヨンセの代表曲である『Listen』です。
歌唱力を見せつけるにはもってこいの曲なので、何かのオーディションやコンクール等で歌う方も多いですよね。
この動画の0:54秒からの高音は、地声のようにパワフルですが、ミックスボイスです。
では次に、日本のシンガーで比較していきます。
まずはOfficial髭男dismのボーカル:藤原聡さんのベルティングボイスです。
参考動画は「ミックスナッツ」です。
Aメロから高いキーが出てきていますが、A4以上の音はほぼベルティングボイスで歌っています。サビは半分以上がベルティングボイスですね。
藤原聡さんの高音発声はまさにベルティングボイスといった声で、とても力強く声量があり、終始安定した高音を維持しています。ライブでもこの声を安定して出している藤原聡さんは凄いです。
「ミックスナッツ」の歌い方解説記事もありますので、良かったらご覧下さい。
次にSaucy Dogのボーカル:石原慎也さんのミックスボイスです。
参考動画は「シンデレラボーイ」です。
Aメロの「からだは〜」の「だ」のF#4の音はミックスボイスで、サビは最初から最後までほとんどミックスボイスで歌っています。
とても綺麗で耳障りの良い高音ですね。
「シンデレラボーイ」の歌い方解説記事もありますので、良かったらご覧下さい。
さて、ここで「ベルティングボイスもミックスボイスも一緒じゃん!」と思った方もいると思います。
地声では出せない高音域を歌う歌唱法であるミックスボイス。
ベルティングボイスとは何が違うのでしょうか?
解説していきます。
ベルティングボイスとミドルボイスの違いとは?
ベルティングボイスとミドルボイス、どちらも高音域の発声法ですが、何が違うのかというと、
- ベルティングボイスは地声です。
- ミックスボイスは裏声です。
ミックスボイスについてはご存知の方も多いと思いますが、
「裏声を地声のように太く強く発声するテクニック」
と解釈している人が多いと思います。
人によって解釈はそれぞれですが、
「ミックスボイス=裏声」という解釈が一般的になっています。
それに比べてベルティングボイスとは
「通常の地声では出せない高音域を地声で発声するテクニック」
ということになります。
じゃあどうやって、通常の地声では出せない高音域を地声で出すのでしょうか?
ベルティングボイスの発声原理を解説していきます。
ベルティングボイスの発声原理
ベルティングボイスを発声するには、声帯を薄く引き伸ばす必要があります。
例えば、ギターの弦を想像してみてください。
ギターの弦はチューニングと言って、弦の貼り具合を調整して音程を合わせます。
弦を引っ張っていけば音はどんどん高くなります。
逆に弦を緩めていけば、音は低くなります。
この、ギターの弦と同じように、声帯も引っ張れば音が高くなるんです。
声帯を引き延ばした状態で歌うと、
通常の地声では出せない高音域を歌うことができます。
ベルティングボイスの出し方(練習方法)
それではベルティングボイスの出し方(練習方法)を解説していきます。
- 喉仏を下げて声帯を引き伸ばす
- 腹式呼吸で強い息を声帯に当てる
1.喉仏を下げて声帯を引き伸ばす
ベルティングボイスの要である声帯を引き伸ばす方法ですが、声帯は腕や指を伸ばすように自分の意志で伸ばすことが難しい部分です。
そこで、喉仏を下げることによって声帯を引き伸ばす事ができます。
喉仏の下げることも慣れるまでは難しいので、まずは喉仏が下がっている感覚を掴みます。
1.大きなあくびをする
大きなあくびをしてみてください。ただ口を大きく開けるのではなく、喉の奥まで大きく開けます。そうすると喉が下がります。喉仏あたりを触りながらあくびをすると、喉仏が下っているのがわかりやすいと思います。
2.舌先を喉の奥に持っていく
口を閉じた状態で、舌先を上顎の前歯の根本に付けます。そのまま舌先を上顎につけたまま喉の奥に持っていきます。
そうすると喉仏が下がります。これも喉仏を触ったり鏡を見ながら行うと、喉仏が下がっているのがよく分かると思います。
3.喉の筋肉だけで喉仏を下げる
1〜2で喉仏を下げる感覚を掴んだら、舌先を喉の奥に繰り返し持っていきます。
そうすると喉仏周りの筋肉が少し疲れると思います。この筋肉は胸骨骨状筋(きょうこつこうじょうきん)という喉仏と鎖骨をつなぐ筋肉で、この胸骨骨状筋を鍛える事によって喉仏を意識的に下げる事ができます。
舌先を喉の奥に繰り返し持っていくことによって胸骨骨状筋は少しずつ鍛えられ、コントロールできるようになりますので、根気よく行いましょう。
ベルティングボイスで歌う歌手や声帯を器用に使える歌手は、喉仏を自在に上げ下げすることが出来ます。
2.腹式呼吸で強い息を声帯に当てる
喉仏を下げられるようになったら、喉仏を下げた状態で腹式呼吸を使い、強い息を声帯に当てて高い声を発声します。
しっかりした腹式呼吸と強い息を使うには、下記の記事で紹介している基礎練習がおすすめです。
また、声帯に強い息を当てた時、声帯をしっかり閉じることも重要です。
声帯をしっかり閉じるには声帯閉鎖筋を鍛える練習が必要になりますので、下記の記事の練習方法を行ってみてください。
喉仏を下げながら、腹式呼吸で強い息を声帯に当て、声帯はしっかりと閉じる。
すべてを同時に行うのはとても難しいですし、最初はどの筋肉も弱いのでなかなか上手くいきません。ですが、しっかり練習していけば必ず出せるようになりますので、根気強く練習してみて下さい。
まとめ:【ボイトレ基礎】ベルティングボイスとは?ミドルボイス(ミックスボイス)との違いは?
まとめると
・ベルティングボイスは通常の地声では出せない高音域を、地声で発声するテクニック
・ベルティングボイス地声であり、ミックスボイスは裏声である
ということになります。
どちらも、しっかりと強い高音を発声するには横隔膜のポンプを鍛え、声帯をしっかり閉じる必要があります。
横隔膜のポンプの強化方法、声帯閉鎖の強化方法については下記の記事でまとめています。
余談
ここからは余談になりますが、ベルティングボイスの定義において、女性にしか出せない発声法だと解釈している人もいますが、そんなことはありません。
男性でも出せます。
実際に男性でもベルトしてる声は沢山あります。
例えばブルーノ・マーズの高音は、見事なベルティングボイスだと思います。
こちらに参考動画を張っておきます。
ブルーノ・マーズの名曲『Versace on the Floor』ですが、0:49あたりからの声がベルティングボイスです。
音はB4からD5まで出しているので、ほとんどの男性の地声では出せない高音ですよね。
この音域をあれだけ強く太く発声しているのは、間違いなくベルティングボイスです。
冒頭でお話ししたBTSのJINさんや他のメンバーも、とても上手にベルティングボイスやミックスボイスを使い分けています。下記の動画はBTSの「Butter」という楽曲です。
0:36からのジョングクさんの歌声は、とても綺麗なベルティングボイスです。さらに1:29からのJINさんの歌声は、ジョングクさんよりも太くて力強いベルティングボイスです。
ちなみに0:45からのジミンさんの歌声は、ベルティングボイスよりも線が細い綺麗なミックスボイスのようです。
さらにこんな凄い歌声の方々もいます。
アンソニー・エヴァンスとビル・キャンベルというアメリカ人シンガーの2人ですが、1:47からの2人の歌声は、通常の地声では出せない高音域を、とても力強く発声していますよね。
これは、まさにベルティングボイスです。
ちなみにですが、ベルティングボイスが出せるようになると、つい高い曲ばかり歌いたくなってしまいますが、歌で重要なのは高い声だけではありませんので、その辺りはしっかりとバランスを取っていきましょう。
どんなに高音が凄いシンガーでも、ずっと高い声ばかりで歌われてしまうと、聴く側は疲れてしまいます。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。